クライミングシューズの特長
クライミングシューズは岩を登るためのものですから、シューズを履くことで素足で登るよりも良い点があるわけです。
クライミングシューズを履くメリットは大きく分けて2つ。
「ゴムの性能(摩擦力)を利用する」ことと、
「足全体の力を効率よく伝える」ことです。
その為に、各メーカーはユーザーのニーズに応えるべく、沢山の種類のシューズを開発、製造しています。
様々な種類のシューズがどういったユーザーやシーンを対象にして作られているのか、自分がシューズを選ぶときの参考にできるように、簡単ですが説明していきたいと思います。
ゴムの性能(摩擦力)を利用する
1つ目の「ゴムの性能(摩擦力)を利用する」は、靴底のゴム(ソール)の摩擦力(フリクション)で岩の表面などに吸い付いて滑りにくくする、ということ。その為、まずはクライミングシューズ最大の特徴である「ソールの性能」について見ていきましょう。
ソールには色々な種類があります。フリクション性能をはじめ、硬さや扱い易さなどの違いがあり、岩の種類や傾斜、気温、登攀タイプなどによってチョイスします。フリクションが高いからと言って良いシューズとは限りません。もちろん好みもあります。それぞれの特長を知って、状況に合ったシューズを選べるようになりたいものです。
ソールの性能についてポイントとしては、 硬さと足裏感覚の関係 と フリクション性と安定性・耐久性の関係 です。
硬さ

一般的にソールが硬い方がエッジング向きで、より爪先の1点に力を集中できるので岩場の極小なスタンスにも立ちやすい反面、硬いとそれだけ足裏の感覚が鈍くなっていきます。柔らかいほうがスメアリング向きで、より高度なフットワーク、ムーブに対応し易く足裏感覚も優れていますが、1点に力を集中させるのには、より多くのパワーが必要となります。
フリクション性

もちろん高い方が良いですが、高ければそれだけ耐久性は低くなり、湿度・気温の影響を受け易くなっていきます。ゴムには、冷えている時(登り始め)と暖かくなった時(登り途中など)でフリクションや硬さが変化する特性があるので、理屈では高フリクション性能であればあるほど安定感に欠けますし、また、高いフリクション性能は少なからず耐久性を犠牲にします。
足全体の力を爪先に伝える
さて2つ目、「足全体の力を効率よく伝える」ですが、クライミングシューズを履くことによって、腰・太もも・膝・ふくらはぎ・足首を伝って流れてくる力を、つま先の1点だったり、親指の下だったり、トゥやヒールなどに、効率的に集中させやすくなる、という利点です。
一般的に強傾斜ならダウントゥ・ターンイン、緩傾斜ならフラットでストレートなシューズだと言われるのは、そういったシューズの形状が、それぞれの傾斜に合ったスタンスを拾うことに適しているから、なのでしょう。
ただし、あくまでもそれは一般論であり、情報を鵜呑みにせず、考えて選ぶことが大事です。シューズ選びに正解はありません。
効率的に力を出せるシューズ選びで特に大事なのが、「自分の足の形に適しているのかどうか」です。いくらシューズの性能が目的と合致していても、シューズと自分の足の形がまったく合わない状態だったら、本来の性能の10分の1も発揮できません。自分の足の形をよく知り、それにあったシューズを選ぶことになります。
足型を選ぶ基準としては、大きく分けて【爪先形状】と【ヒールカップ形状】でしょうか。
爪先形状

よく言われるギリシャ型だとかスクエア型だとかっていうやつです。人によって指の長さが異なり、指の長さやその形状を種類別に分けたりして区別しています。親指が一番長いタイプはエジプト型、四角いタイプはスクエア型、人差し指が一番長いタイプはギリシャ型と呼ばれていますが、日本人は比較的ギリシャ型が多いようです。ちなみに私は昔はギリシャ型ですが今はエジプト型っぽいです。

フットワークの基本として、足の指はスタンスを掴むように踏んでいきますが、このとき、一番力が入るポイントがあります。大体の人が親指の先っちょだと思いますが、中には親指と人差し指の中間ぐらいだったりもします。その場所に力を込め易い形のシューズが自分に適した形のシューズになる、というのが基本で、そういうシューズを是非選びたいものです。
とは言うものの、自分の足の形に合ったシューズを見つけるのはとても時間がかかりますし、大変です。沢山のシューズを履いて様々なタイプの岩を登って試していくことによって、次第に見つかっていくものです。
と、それでは解説にならないので、失敗しないための具体例をいいますと、サイズを小さくしていった時に足のどこが極端に痛い場合は、間違いなく自分の足にフィットしていません。初心者で無い限り、伸びるから大丈夫、という判断はオススメしません。完全にフィットしているシューズというのは結構小さくしていってもストレスを感じずに履けてしまうものです。だからといって小さくし過ぎて後悔している人も多いですが。
最近ではとても多くの種類のクライミングシューズが日本に入ってきています。どんな足形の方でも根気よく探していけば必ず自分にバッチリ合ったシューズが見つかると思うので、頑張って探してみて下さい。
また、使い方の違いでも爪先形状の選び方は変わってきます。
例えば岩場での極度のエッジングは1点集中ですので、極論で言うと他のどの部分を犠牲にしてもその1点に全ての力が注げるようなフィット感を選ぶこともあるかもしれませんし、コンペのハリボテ対策などを考えたスメアリングを前提として選ぶ場合は、爪先がある程度自由に動き、小指から親指までを素直に使えることが大事になってきますので、爪先全体に無理が無く、ゆとりのあるシューズが最適な場合もあるでしょう。
どちらにせよ、自分の足にフィットしていることが前提ではありますが、爪先の形状も、このように自分の目的に合わせてチョイスしていけるのがベストですね。
ただし足型というのは、ずっと同じかというとそうじゃないのです。自分のクライミングスタイルやレベルに応じてどんどんと変化していきます。一度合わないと思ったシューズが3年後に履いてみたらとても良かった、という例は少なくありません。足型、サイズ、常に自分のクライミングと照らし合わせて、より自分に適した形のシューズを追い求めていくことで、それが経験にもなるし、最高のシューズとの出会いに繋がっていくものです。
ヒールカップ形状
気にする方が多い、ヒールカップの形状です。一般的に日本人はカカトがあまり出っ張っていませんので、そんな足型だとすれば、スポルティバ・スカルパが比較的合い易く、ファイブテン・イボルブ・マッドロックあたりは多少ブカブカしてしまう傾向があると思います。まあそれも一概には言えず、シューズによっては合ったり合わなかったりします。ヒール部分はシューズの伸びに比較的相互作用が薄いので、新品時の試着の感じを重視できます。

右は私の足の写真ですが、凹凸が少ない典型的な日本人のカカトです。以前はミウラーのヒールが一番フィットしていて良いと思っていましたが、今はドラゴンレースを好んで使っています。使うシーンにもよりますが。
偏平足気味ですが。
ヒールは人それぞれ好みによって色々です。若干緩くて余っている方が好きな人もいますし、そういったちょっとブカブカなシューズの方がヒールが潰れてうまく効いてくれる河原の岩などもありますから、一概にはどちらが良いとも言えませんが、それでもピッタリとフィットしていることに越したことは無いでしょう。
それでもヒール形状は、意外とシューズのフィッティングよりもその人のテクニックである程度フォローできる部分なのかもしれません。
見た目
シューズのデザインは、そのシューズが持つ機能とは関係ありませんが、シューズ選びでは無視できない要素です。
見た目やその特性などで気に入っているシューズは、時に高性能シューズを超える性能を出せる場面があります。もちろんモチベーションも含め、自分の好きなデザインのシューズというのは、それを使うだけでメンタル強化、テンションを上げる効果があります。
フィジカル・テクニックと同じかそれ以上にメンタルが完登に強く影響するクライミングでは、冗談ではなくシューズ見た目は思ったよりも重要な要素です。