クライミングシューズの使い方
使い方と書きましたが、一般的にクライミングシューズの説明には、「岩を登る/ジムを登る/初心者用/上級者向き」という言葉が商品説明に用いられていますが、ここではもっと具体的な部分を知ってもらいたいです。
クライミングシューズの具体的な使い方は大きく分けて「エッジング」と「スメアリング」の2つに分けられます。
この2つの使い方をするという前提のもと、それぞれに適したシューズはどういうもんなのか、という観点で見ていきます。
エッジング

ソールの角(エッジ)の1点に力を集中してスタンスに立ちます。踵は上がり、つま先が一番下にきます。足全体を固定させ、ふくらはぎから伝わってくるの力を爪先の1点に集中させます。当然、できるだけ力が爪先に集中している方がエッジングの力は高く働きます。かかりの少ない小さいスタンスや、ポケットなどでよく使うフットワークです。よく雑誌でみる「結晶に乗る」は大抵エッジングです。
エッジング向きのシューズ
エッジングに特化したシューズは、ソールが硬いシューズが多いです。ソールを硬くすることで、足全体の力を爪先に集中させやすくしています。当然、足の指の力をポイントに最大限発揮できます。丁度良く爪先に力が集まるポイントを作れるように、調整範囲が広くガッチリとフィットさせられることからレースアップのシューズが多いです。
サイズ選び
サイズは小さめの方がより力を集中させ易く、足の指の力が成長していない初心者でも、極僅かなスタンスに立てるようになります。もちろん痛いです。デメリットとして、シューズに頼ってスタンスに立つ傾向が強くなるので、トレーニングで使っていると足の指の力がつきにくく、常にシューズに頼るフットワークになりがちです。
逆に、サイズを緩くしていくとエッジング能力は低下していき、足の指の力を使わないと小さいスタンスには立ちづらくなっていきます。
エッジングシューズといえば
代表的なエッジングシューズとしてのオススメは、ミウラー系のシューズですね。現在でも愛用者が多い元祖ミウラー、レディースモデルのミウラーウーマン、そして近年ボルダー・ルート問わず支持が高いミウラーVS。
どのシューズもソールが硬く剛性が高く設計されたシューズで、足の力を爪先に集中させて極少スタンスへの立ち込み能力が高いのはすでに周知の事実ですが、これらのシューズのすごいところは、スメアリング時にも発揮されます。足の指の力がある程度付いている中・上級者は、指で握り込んでからの足の立ち込み力が絶大で、一見硬すぎて弾いてしまうような花崗岩の「面」に対しても驚くほどにフリクションを発揮します。
・ミウラー(スポルティバ)
・ミウラーW's(スポルティバ)
・ミウラーVS(スポルティバ)
スメアリング

親指の下あたりを押し付けるようにして、ベタっと立ち込みます。踵は下がり、つま先が上にきます。接地面積を多く、圧力を高めてフリクション性能を最大限に利用します。凹凸があまり無いスタンスに乗る際によく使うフットワークです。足の指の力が強くなってくると、エッジングで立つような小さいスタンスにもスメアリングで立てるようになります。
スメアリング向きのシューズ
スメアリングに特化したシューズは、スリッパタイプが多いです。アッパーを柔らかい素材にすることで爪先の自由度を上げています。スメアリングにはフリクションを把握する為により一層足裏感覚が必要になるので、柔らかいソールになっているシューズがほとんどです。
サイズ選び
サイズは多少緩めの方が爪先の自由度が高く、足でスタンスを掴む感覚が分かり易くより効率的に接地面を把握できます。緩く履くのでキツイ痛みはありません。デメリットとして、小さいエッジのスタンスに立つ時は、足の指の力の大小に左右される割合が高く、足の指力の無い人はエッジに立つのが難しいです。しかし、逆に足の力が無い人は、緩めで履き、爪先の自由度を上げておくことで足の指の力を効率的にトレーニングできます。
サイズが小さめだと足の拘束感が上がって、小さいスタンスに立てる気がしますが、スメアリングの場合はある程度接地面積が必要なので、足が拘束され過ぎているとあまりフリクション性能を生かせません。また、拘束されるとカカトが上がりエッジングのフォームになってしまい、スメアリングには向きません。
スメアリングシューズといえば
代表的なエッジングシューズとしては、最初に取り上げた5.10のモカシムを始めとするスリッパ群です。スポルティバのコブラは、モカシムよりもタイトでターンインしていることで先端への力をスムーズに伝えますし、スリッパの特長を生かしたトゥやヒールのフッキング性能も抜群です。
同じくスポルティバのスピードスターはNO EDGEというエッジをなくして指先全てをダイレクトに使えるようにしたシューズで、抜群の足裏感覚と相まって最高級のスメアリング能力を弾き出します。現在発売されているシューズの中でも最もソフトな作りです。その柔らかさは右の写真の通り。
ファイブテンの5Xもモカシムと並ぶスメアリングシューズの代表格と言えるでしょう。独自のミッドソールによる抜群の足裏感覚は多くの5X信者を生み出しています。
・コブラ(スポルティバ)
・スピードスター(スポルティバ)
・5X(ファイブテン)
フットワークの両極端
この2つの使い方を基準として、シューズを分けることができます。エッジング向きのシューズなのか、スメアリング向きのシューズなのか、どちらにも対応できるオールラウンドか。これが、シューズの使い方の基本です。
エッジングとスメアリングは両極端。エッジングからスメアリングまでの間しか存在しません。ということは、エッジ〜スメアのどこかに、貴方が今必要としている最適なシューズの「使い方」があるわけです。
最適な使い方と同時に、貴方の苦手な使い方もありますね。苦手なフットワークを克服するためにもシューズ選びが必要だったりもします。上のスメアリングに書いたように、スメアリング力を高めたければ、柔らかいシューズをユル目で履くことによって、足の指の力を効率的にトレーニングすることができたりもします。
また、実はクライミングシューズの多くはエッジングもスメアリングも両方とも良いバランスを狙って作られています。ちょっと意味合いは異なるかもしれませんが、一言で言うとこれらはオールラウンドシューズと呼ばれることが多いです。もちろん前に紹介してきたシューズたちもオールラウンドで使える良いシューズばかりですが、昨今では特に人工壁専用シューズとして開発されるケースが多いようで、その分バランスのとれた名作が生まれ、コンペシーンはもちろん、岩場でも活用されている方が多いです。
オールラウンドシューズといえば
オールラウンドシューズの代表はファイブテンのJET7。ジムに行けば1人は履いてる名シューズです。最強のフリクション性能を備えたHFソールは、使い込んでいくとよく足に馴染み、高性能でいながら足裏感覚の良さに大変優れています。柔らかいながらも剛性のバランスが丁度良く、足の指の力があればエッジング性能も消して低くはありません。
そしてJET7と同じくオールラウンドシューズとして大変人気があるのがスポルティバのソリューションです。こちらも発売から現在まで色あせずNo.1をキープしている名シューズ。JET7より日本人好みの足型をしており、ソールの方さ、剛性も高い作りになっています。決して硬すぎないシューズですが、スポルティバ独自のP3システムの恩恵でエッジング能力は最高レベル。独特のヒールカップもオールラウンド性に一役買っています。
また、2011年の発売時に売り切れ続出で話題になった同社のパイソンは、様々な種類のフットワークが必要となる人工壁に的を絞って作られた最新鋭のボルダリングシューズで、そのシャープな足裏感覚とフッキング性能は高い評価を得ています。
・JET7(ファイブテン)
・ソリューション(スポルティバ)
・パイソン(スポルティバ)